家族信託とは
更新日: 2023/10/26
家族信託とは、財産の所有権のうち、管理する権利だけを信頼できる家族に託すことができる制度です。
家族信託を利用すれば、認知症の悪化等で自分自身で財産を管理できなくなった際に、資産の凍結を回避することが出来ます。
家族信託の仕組み
家族信託は、委託者・受託者・受益者の3者の間で行われます。
「委託者」・・・財産のもともとの所有者で、財産を信託する人
「受託者」・・・財産の管理運用処分を任される人
「受益者」・・・財産権を持ち、財産から利益を受ける人
委託者が受益者となることが通常ですが、受益者を家族複数人に設定することも可能です。
家族信託と他の制度との違い
法定後見制度との違い
法定後見制度は、本人の判断能力が低下した後で家庭裁判所に申し立てを行うのに対し、家族信託は、委託者本人の判断能力があるうちに当事者間で締結します。
また、法定後見制度では、財産を管理する法定後見人の選任を裁判所が行いますが、家族信託は、委託者本人が財産を管理する受託者を選任する点も、両者の違いです。
任意後見制度との違い
任意後見制度では、認知症など判断能力が衰えた後に後見が開始しますが、家族信託は、契約と同時に開始します。
また、任意後見を行うには、本人の判断能力が衰えた場合、本人や親族が家庭裁判所に申し立てをする必要がありますが、家族信託はその必要がありません。
遺言書との違い
家族信託では、次の後継者だけでなく、次の次の後継者以降を決めることもできます。
家族信託のメリット
①親の財産管理が容易におこなえる
財産の名義を子どもに変え、広い裁量を与えることができます。
たとえば、父親が元気なうちに財産の名義を長男に移しておき、その財産を自分のために使って欲しい場合、父親を委託者兼受益者、長男を受託者とする家族信託をしておくことで老後の資産管理を安心して長男に任せられます。
②不動産の共有によるリスクを回避できる
不動産を兄弟や親族など、複数人で共有している場合、共有者のうちの誰か1人が認知症などにより意思能力を欠いてしまうと、不動産の売却や大規模修繕などの意思決定ができなくなります。民法251条において、共有不動産の変更は共有者全員の同意が必要だと定められているためです。
そこで、不動産の管理・運用を担う権限を1人の「受託者」に設定することで、契約能力喪失のリスクを回避できます。
ただし、共有者としての権利や財産的価値は平等のままであり、得た家賃収入などは全員が得ることができます。
③相続による遺族の負担を軽減できる
家族信託契約により承継者を決めておくことで、相続が発生した場合の遺産分割協議が不要になります。
遺産分割協議の決定は全員の同意が必要とされるため、誰かが認知症などで意思能力を欠いている場合は、成年後見人を立てなければ遺産分割協議自体が行えません。
そのため、遺産分割協議が不要であることは、大きなメリットであるといえるでしょう。
④倒産隔離機能が使える
信託された財産は、委託者の名義ではなく受託者の名義になります。そのため、委託者の倒産の影響は受けません。
家族信託のデメリット
①身上監護においては不十分
家族信託はあくまでも、財産管理のための制度です。そのため、例えば、認知症になった親が施設に入居する場合、受託者である子どもが親の代理人として入居契約をすることは出来ません。
身上監護についても十分な対策が必要な場合には、成年後見制度の利用も検討するとよいでしょう。
②受託者を誰もやりたがらない場合がある
毎年支払う必要がある固定資産税の納税通知書が受託者に届くだけでなく、毎年受益者に信託された財産の状況を報告する手間も発生します。
そのため、引き受けてくれる受託者が見つからない可能性も考えられます。
③親族間の不公平感を生む恐れがある
2人いる子どものうち、1人を受託者とした場合に、他の子どもに何も知らせず勝手に進めてしまうと、知らされなかった子どもから不満が出てくることもあります。
家族信託を進める前に、あらかじめ家族会議をしておく必要があるでしょう。
④節税効果は期待できない
不動産等の名義は受益者に変わりますが、財産権は委託者の元に残るため、相続税を節税することは出来ません。
⑤遺留分侵害額請求をされる場合がある
家族信託契約によって決めた後継者に財産権を承継する際に、遺留分を持つ相続人がいる場合、遺留分相当額のお金を請求してくる可能性があります。
家族信託の流れ
①信託契約書を公正証書で作成し、締結する
契約書に記載する内容は、委託者と受託者で自由に決めて問題ありませんが、主に以下のような事項について取り決めることになります。
- 信託の目的
- 信託財産
- 受託者、委託者、受益者
- 信託期間
- 信託財産の管理処分権
- 契約締結日
②信託財産の名義変更を行う
信託財産が不動産の場合、信託財産であることを公示するために、名義人を委託者から受託者に変更する登記を行う必要があります。
登記は法務局で行いますが、個人で対応するのが難しい場合には、司法書士に相談することをおすすめします。
③信託口口座の開設
受託者には、自分の財産と信託財産を分別して管理する義務があります。そのため、信託財産管理用の銀行口座を開設しましょう。
家族信託についてよくある質問
①家族信託の手続きにはどれくらいの時間がかかる?
家族信託の手続きは、最短で1カ月程度で可能です。しかし、家族間の同意を得る作業に最も時間がかかります。
②家族信託は中断したり内容を変えたりできる?
できます。
中断の場合は、委託者と受益者の合意があれば可能ですが、変更の場合は、委託者、受益者に加えて受託者の合意が必要になります。
ただし、信託の目的に反しないこと・受託者の利益を害しないことが明らかであれば、受益者のみの意思表示でも変更可能です。
③家族信託の当事者には家族しかなれない?
家族以外の第三者や法人も当事者になることができます。
ただし、弁護士や司法書士などの専門家が受託者となることは、信託業法に抵触する可能性があります。
最後に
家族信託は、資産凍結を回避するのにとても有効な制度です。判断能力が低下してからでは遅い…
ご家族ともしっかり話し合って、早い段階から「家族信託」の準備を始めていきましょう。